野草とともに
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せりばおうれん Coptis japonica var. dissecta キンポウゲ科 Ranunculaceae
本図は神戸薬大の薬草園に栽培されたものを1989年3月11日にスケッチしたものである。
おうれんの変種には,きくば(C.j. var. japonica)とせりば(C.j. var. dissecta)とがある。このdissectus(a, um)は葉が細裂していることを表している。兵庫県山南町は,かつて丹波黄蓮の栽培で有名であったが,収穫するのに数年もかかることから,今では栽培されることもなく,林間に半野生化しているのが見られる。私は山南町へは2月の末から3月の初めに,せつぶんそう(Eranthis pinnatifida)を見るために毎年のように出掛けていたが,その時せつぶんそうの群落の近くの林間に,この半野生化した草が花を咲かせていた.
この時期,花を咲かす草が少ない中で凛然としたこの花は,ひとしお深い印象を与えた。
おうれんは,古来中国でも,我が国でも苦味健胃薬として用いられてきているが,私が生薬実習で初めて,おうれんの実物を見せられた時に,その美しさに感嘆した思い出が,いまだにはっきり残っている。この切口中に見られる黄色部分には,berberineやcoptisineやpalmatineや worenineなどが証明されている。これらが数%も含まれていて,いわゆる苦味健胃薬として用いられているのである。
ところで苦しさという点で,私は体験的に爽やかな苦さと爽やかでない苦さがあると思っている。例を挙げると,おうれんやせんぶり(Swertia japonica)の苦さは爽やかであるが,くらら(Sophora angustifolia,マメ科)の苦さは爽やかでない苦さである。この爽やかでない苦さがいつまでも口に残ると気持ちまで暗くなる。この爽やかな苦さと関連があるように思えるのだが,おうれんに精神安定作用があるといわれている。
いずれにしてもおうれんは,平安時代(794~1192)に制定された延喜式に記載されているほど,我が国では,古くから用いられている。このようにおうれんは,我が国で薬学を学ぶ者にとって,もっとも重要な植物といわねばならない。
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