野草とともに

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なんばんぎせる Aegineta Indica

なんばんぎせる Aegineta Indica なんばんぎせるは,はまうつぼ科に属する 1年生草本でいね科の植物とくにすすき (Miscanthus sinensis)に寄生し,8月か ら10月にかけて赤い頭花をつける。寄生植 物であるため,普通の草とはかなり異なった 姿をしている。
奈良県の葛城山のすすき原の おおなんばんぎせる(A.sinensis)は有名で ある。 この草は万葉集の昔には“想い草”とよばれ ていた。一見,物思いにふけっているように も見えて,よい名前だとは思うのだが,この 古い名前は“なんばんぎせる”に変ってしま った。万葉集は8世紀半ば頃迄の歌を収録し ているのであるし,“なんばんぎせる”とい う名前は勿論,タバコの日本渡来(16世紀) 以後の命名である。 私自身はこの草の姿を見て“なんばんぎせる” という名前はなかなかしゃれた名前で,この 葉を欠いている茎の部分を含めて,マドロス パイプを連想させて,うまい命名だと思って いる。
“想い草”の方は,日本人の心情をよ くあらわしているとはいえ,あまりにも文学 的であるように思うのである。

これに関連して思い出すのは,きく科の植 物で矢張り8月から10月に花をつけるがんくびそう(Carpesium divaricatum)である。
この花を知っている人は,まさしくキセルの雁首をこの花にみて,ニンマリとするのである。それほどにうまい命名だと私は思っている。しかし雁首はキセルの一部であって全体ではない。
がんくびそうは広いくさび形をした葉がつく茎をもっているので,キセル全体として表現することが出来ないのである。
またこのラテン語の属名のCarpesium はえり首に巻くカラーを意味している。私達がヨーロッパの宮廷画でよく見るあの貴族達の首廻りを飾っているカラーである。こう見てくると,矢張り日本人と欧米人とでは感性のあり方が,少し違っているように思う。
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