野草とともに
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われもこう Sanguisorba officinalis バラ科 Rosaceae
探草会で月に一回は,主として近畿の山々 を歩いているが,その仲間が異口同音にわれ もこうを見ることが少なくなったと嘆いてい る。
われもこうには派手な美しさはないが,秋 の山野にふさわしい,じんわりと心に沁み込 んでくるような何かを持っている。
既得によ るとこのスケッチは1993年10月9日に 滋賀県比良山の八雲ヶ原湿原に行った時に画 いたが,スキーリフトの乗り場付近の陽あたりのよい斜面にまつむしそうやせんぶりの咲 く中,それらより,ひときわ,ぬきんでてい て秋風の中に震えていた。
子供の頃から,何故だかこの草の名前を知 っていて,これに吾亦紅という字が当てられ ると信じて疑わなかった。
あまり目立たない 存在ながら,一生懸命,自己主張をしている のが,その名前の由来とばかりに思い込んで いた。
俳句の歳時記の季題でも吾亦紅となっ ている。ところが詳しく調べてみると吾木香 というのが正しいらしい。木香は,インド, パキスタン国境のカシミール地方の原産であ ざみに近いキク科の植物Saussurea eostus の根を乾燥したもので,古く神農本草経にも 記載され,芳香性の健胃剤として用いられる。
唐代に,我が国に輸入されたものが正倉院にもあるという。われもこうの根を乾燥したものは地楡と称せられ,止血剤,収斂剤として用いられているが,これには,とりたてていうほどのにおいはない。それでは,植物的に関係のない,この植物に吾木香と名づけられたのは何故かという疑問が残る。
地楡が止血剤として用いられることは,われもこうの学名Sanguisorba officinalisがよく,あらわしている。種小名のofficinalisは薬剤として用いるという意味であり,属名は Sanguis(血)+sorbere(吸収する)という意味で,止血剤として用いられてきたことを示している。従って,もっぱら薬剤的意義から,吾木香となったと考えている。
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