野草とともに

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かのこゆり Lilium speciosum ユリ科 Liliaceae

かのこゆり Lilium speciosum ユリ科 Liliaceae 今年の 7月22日に,豊中に住む友人が「今, 丁度シーボルトをテレビでやっているよ」と いう電話をくれて,早速テレビをつけて,シ ーボルトがヨーロッパのかのこゆり栽培ブー ムに火をつけたことを知った。
調べてみると, 彼は1823年に長崎に渡って来たが,20年代の 後半までにこの球根をオランダに送り,1832 年にはゲントの植物園で花を咲かせるのに成 功している。その花の図がイギリスに送られ, そこからヨーロッパの諸国に送られ,ヨーロ ッパでのこのゆりの栽培熱を煽ったという。
この花の美しさについては,シーボルトより 130年も前に(1690),ケンペルが伝えており, シーボルトもその事をよく知っていて,これ に L.speciosum Kaempferiと命名したほどで あった。
しかし丁度,その間の1775年に来日 したリンネの高弟チュンベリイがこれに L.speciosum Thunbergを与えていて,この学 名が,現在でも使われている。
ちなみに speciosus(a, um)は“華麗な”という意味で, 当時イギリスで発行されていたボタニカル・ レジスター(1937)には「もし,美しさにお いて最高のものがあるとすれば,それは間違 いもなく,このかのこゆりである」と絶賛し ている。  

このスケッチは1989年 8月19日に画いているが,この暑い昼下がりに無人の薬草園に 登って行くと,片隅にこのゆりが華麗に咲いていた。この美しい淡桃色のそり返った花 弁の濃紅色の乳頭状の突起の斑点には驚かされたが,これを鹿の子絞りに見立てて, “鹿の子百合”と命名された。
鹿の子の名前をもつ草木は,日本ではオミナエシ科の かのこそうやバラ科のきょうがのこがある。
今は日本では栽培品だけしか見られないが,手もとの図鑑を見れば,四国,九州に 分布していて,鹿児島県の甑島は野生密度が高いとある。
私はこの美しい百合のこのような由緒を知って,たいへん嬉しい思いにひたっている。
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